マルチメディアコンテンツと紙媒体。

キーワード:インターネット

A comparison of the Use of Text and Multimedia Interfaces
to Provide Information toThe Elderlyという論文がある。
この論文では、64名の平均71歳の高齢者に対して、インターフェイスに
関する実験を行っている。高齢者はコンピューターメディアを使用したものと
そうでないものに対してどちらが可読性が高いか、という実験である。
高齢者は読書量が多いことがわかっており、それは高齢者が紙媒体を
好むからなのか、それとも、そうではなく、ただコンテンツとして興味が
あるのか、を調べるのに非常に有意義な実験である。
実験内容としては男性は、ちらしよりも、コンピューターのシステムの方を
好み、女性はむしろ、文字だけのインターフェイスには激しい嫌悪感を
抱いていることがわかった。
こうしたコンピューターそれ自体への嫌悪感が特に見られないデータ的結論
から、年長者が買い物をし、金銭を管理し、他の毎日の生命活動を実行
することのためにコンピューターを有効に使用することができるだろうという
主張をしている。
しかしながら、コンピューターがより若い人々のためにあり、多くの老人が、
新技術に使用されて得るのに苦労するかもしれないという考えは依然として
残っており、そこはインターフェイス設計しだいである、と結んでいる。
これは非常に興味深い実験であると思う。
つまり、高齢者は何もコンピューターそれ自体が嫌ではなく、むしろ、
紙媒体で文字だけのコンテンツは嫌がる傾向にあった。
これは今後、「スマートシニア」層が増えてくるという序章のように
私には感じられた。現在、アクティブシニア(元気高齢者)が増えている。
その中にさらにセグメンテーションがあり、彼らはスマートシニアと呼ばれる。
その特徴は
1.週に10時間以上ネットを使う。
2.若者よりもむしろオンラインショッピングに積極的である。
3.強い口コミ力を持つ。
の3つである。彼らの存在は少なく、それは高齢者がコンピューターに
触れようとさえしないからだ、という≪迷信の共有≫が日本には多く見られる。
しかし、この実験はそうではなく、単純にコンテンツが魅力的ではないから、
コンピューターを使用していないだけであることを示唆する。
なぜなら、単純にコンピューターが嫌いなのであれば、文字だけの
コンテンツを支持し、コンピューターコンテンツを支持しないはずだからである。
しかし、むしろ、シニア女性などは文字だけの紙媒体に対し、嫌悪感すら持った。
現在、カナダの高齢者のインターネットの使用率は60%であり、
日本の約2倍である。今後、団塊の世代が2007年から2015年にかけて、
大挙として60歳以上になっていく背景を経て、高齢者がインターネットに接し、
マルティメディアコンテンツを利用する頻度が増えてくる。
その際に最も、重要なのは二点であると考える。それは、
1.人間工学的アプローチ-ユニバーサルデザイン
2.人間心理学的アプローチ-シルバーエンターテインメント
の二点である。これまでは1のアプローチが中心で、2のアプローチは
少なかった。しかし、1と2は言わば、車の両輪であり、どちらが欠けても前に
進むことは出来ないものだ。この実験結果の「女性の過剰な反応」は
1も重要だが、2の中身のコンテンツ自体も重要であることを示唆していた。
お洒落で読みやすく、楽しめるコンテンツが人気なのは当然である。
これから、益々高齢者のインターネットに対するニーズは増えていくのは
明白だ。しかし、その見えている未来に対して、大きな仕掛けを出来ている
企業はどれだけいるだろうか。
高齢者はネットを使えない。
そういう安易な結論付けをしていないだろうか。
高齢者はネットを使える。
その視点に今一度立って、物事を考え直すべきだ。

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