一番大事なケア
キーワード:健康・ヘルスケア
痴呆症。今は認知症という言葉が使われるようになったが、今だにその
症状に対する解決案は明快にはなっていないのが日本の現状だ。そんな
中、山井和則氏のホームページで紹介されている日本と海外の認知症に
対する「違い」は強烈に印象に残った。
まずは、海外の事例から。
http://www.yamanoi.net/grouphome/ghstory/ks2.htm
この方も痴呆症です。マニキュアをつけて、イヤリングをつけて、パーマをあてセットをして、パンタロンスーツです。
「この方は、痴呆症で、ぼけているのだったら、こんなおしゃれをさせなくてもいいじゃないですか」。
思わず、私は、スタッフの方に聞きました。
とても、叱られました。
「そんな考えだから日本人は、だめなのです。何回言ったらわかるの!痴呆症のお年寄りというのは、尊厳や自尊心をきずつけたら、そのショックで痴呆が悪化するのよ。特に女性の方は、身なりをきちんと整えてあげることが、もっとも大切なケアなのよ。寝間着を着せて、散切り頭に散髪したら、そのショックで痴呆が進むのよ。」
と、言われました。
それに対し、日本の悪い施設の場合が以下の通りだと言う。
http://www.yamanoi.net/grouphome/ghstory/ks3.htm
ここに、なぜ8人部屋なのにポータブルトイレが使われているのか? 「ぼけたら、人前で用を足しても分からない、羞恥心や恥の文化なんかないのだ」というのが、残念ながら今までの痴呆の理解です。ところがとんでもない。痴呆症のお年寄りの方が傷つきやすいのです。痴呆ケアの目的は、自尊心を傷つけないことです。 トイレを失敗して「ああ汚い」と、そんな不用意な言葉を言われたためにショックを受けて、それが引き金で痴呆が悪化するケースがたくさんあります。しかし、ぼけたら人前で用を足しても分からない、という発想でポータブルトイレで用を足させる。お年寄りはどうなるでしょう。お年寄りたちは、人前で用を足すのは嫌だ。イヤダ、イヤダ、落ち着かない。ストレスになる。あばれだす。痴呆症がまた悪化してきた。暴れ回って困る。また、薬飲んでもらおう、寝てもらおう。
私たちでも、もし8人部屋で、「ここで用を足してください」と言われたら、「こんなところでは、いやだ」、と叫ぶでしょう。 ところが痴呆症のお年寄りは、いやだと叫べない。それが徘徊やいろんな行動になってくる。そうすると重度になったということで、寝かされてしまう。
思わず、目を背けたくなる位リアルな描写である。この違いはやはり、
介護のシステムを考える際の心の持ち方かなと思う。大人の先輩として
接しているのが上の例で、下の例は「認知症」を絶対的他者として扱って
いる結果である。少しも自分の延長線上として考えられている設計では
ない。
これは非常に悲しい話だ。本来ならば、介護施設は、おもてなしの心を
持つ施設をベンチマークする必要があると思う。日本には京都の一流の宿や
六本木の感動レストラン「カシータ」があるし、海外にはリッツカールトン、
アメリカンエクスプレス、ディズニーランドなどおもてなしの心を徹底的に
こだわった成功例が存在する。
又、老人福祉施設と近い業界事例としては病院の事例があると思うが、パッチ・
アダムスはあんなに徹底的に笑いを取り入れている。日本のケースでも健康落語
というジャンルに挑戦している立川らく朝氏の事例がある。
日本の介護事業は、まだスウェーデンしかベンチマーク出来ていないような
気さえする。しかし、本来ベンチマークすべきは一番大事なケアになりうる
「おもてなし」の部分ではないだろうか。将来的に福祉の世界がおもてなしの
要素を取り入れて、安定的にQOLが高まる仕組みが整うことを期待する。